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密かに甘噛み 2

Author: 玄糸雨楽
last update publish date: 2025-05-08 13:41:32

セツ君は、あの日貸した傘を返しに来てくれただけではなかった。

玄関先でもらったのは、深紅の薔薇の花束だった。

数えてみると7本ある。セツ君が色や本数にもちゃんと理由があると教えてくれた。意味があるのかと気になったから聞いたけど、それ以上は内緒だって。

多分、ずっと仲良くしましょうとかだろうな。

あとで調べてみようっと。

プレゼントの薔薇は、きっと誰もが美しいとため息を漏らすくらいに華やか。それでいてどこか、近寄りがたいような上品さを漂わせていた。

薔薇の色の深みが彼の気持ちを表していたり、とか?

花束を渡すセツ君は、迷いがなさそうな真剣な顔をしていた。

でも、私がその花束に相応しい女性だと素直に喜べない。

だってその美しさには棘があって、冷ややかな痛みがあるから。

なんだか気安くセツ君の気持ちに触れてはならないような気がしてならない。

薔薇は異様なまでに馨しい香りを放っていた。

とてもじゃないけど、ほんの少しも薔薇に触れる勇気さえない。

私の心に戸惑いの色がじわりじわりと広がる。どうしたらいいものか自分の心に聞いてみても、分からない。

でも私は小学校の頃、セツ君が好きだった。

今はもう違うけど、心のなかで綺麗に飾れるような素敵な思い出。

セツ君は凄く優しい。

それは今も変わらない。

⋯⋯変わらないのに。

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